1分30秒の価値

 先日、大勢の方々がお亡くなりになる大きな悲惨な列車脱線事故がありました。
当然、何らかの原因があるはずですし、同じような悲劇を繰り返さないためにも、詳しく事故原因を調べる必要があります。新聞の一面にも、責任追及 という語句が踊っています。
 あくまでも、新聞からの情報でしかありませんが、今回の脱線事故には、幾つかの要素が絡んでいるようです。
1 事故直前に、運転士のミスで最寄りの駅でオーバーランしてしまい、予定より1分30秒の遅れが出ていた。
2 その近辺では、JR(今回の事故の会社です)は、私鉄との競合があり、早さ、正確な運行、を売り物にしている。
3 運行が遅れると、運転士には、処罰が待っている(らしい)。
4 事故直前、乗客による抗議が車掌にあった。(1分30秒の遅れに対して)
5 事故現場の直前の線路は直線で、スピードが出しやすい。ここで遅れを取り戻そう、という意識が働いても不思議ではない。
6 脱線現場のカーブは、制限速度70キロだが、理論上は、130キロまでは脱線しない、といわれている。(ただし、乗客が乗っていない列車で、ということらしいが)。運転士には、100キロ少し越えていても大丈夫だろう、という考えがあったかもしれない。
7 この列車車両は、あらゆる事故を想定して強度を設計してあるわけではない。万が一、事故を起こした場合、ある方向からの衝撃には強度的に弱い。
 ここで、幾つかの仮定
1 もし、1分30秒の遅れが無かったら。
 もちろん、速度オーバーはしてなかったでしょう。ということは、これが事故の誘因の筆頭といえるでしょうか。
2 もし、少しくらいの遅れを、おおらかにとらえる社風があったなら。 
 また遅れてしまった。また、処分される、という脅迫観念が若い運転士さんにあったかもしれません。
3 もし、遅れを抗議した乗客が、遅れの抗議ではなく、少しくらい遅れても良いから、あまりスピードださずに安全に運転してくださいね、と言っておれば、運転士は多少は心穏やかであったかも。遅れてけしからん、という抗議は、遅れを回復せよ、速度を出せ、といっているように、若い運転士さんには聞こえたかもしれません。
4 もし、列車がもっと丈夫で、万が一の事故に備えて、かなり重装備の車体であったなら、乗客への衝撃はもっと少なかったかも。(死者のほとんどは、圧死であるとのこと)
 もし、1分30秒の遅れが、そんなに大きな損失となる状況で無かったら。1分30秒の遅れを、運転士が失敗と思うような状況でなかったなら、当然、運転士は速度違反までして遅れを取り戻そうとはしなかったはずです。1分30秒って、そんなに大きな損失なのでしょうか?速度違反をしてまで、回復しなければならないような、そんなものなんでしょうか?
ここで、また仮定
 ある鉄道会社があったとします。その会社は、乗客の安全と、確実な輸送を心がけているとします。万が一の事故に備えて、列車の車体は、かなり強固にします。とすると、当然投資がふくらみます。また、運転士さんなど、諸スタッフには、ゆとりを持って勤務してもらいたいので、余剰人員をかかえることになります。人件費アップです。確実な輸送を心がければ、小さな分単位のダイヤでは過密でミスが起こりやすくなりますから、ゆとりを持った列車の運行時間をとるようになります。当然、単位時間あたりの輸送量は、減ってきます。となると、儲けは減ってきます。
 経費は多くなり、収入は減ってきます。収入を減らさないようにするには、運賃のアップ、つまり乗客の負担の増加、となります。
 さて、この鉄道会社は、経営が続くでしょうか。乗客が、他の鉄道会社に逃げずに、安全費として、多めの料金を払うでしょうか?
このような鉄道会社が存続できるような社会になったとき、そのとき初めて、今回のような悲惨な事故は無くなるでしょう。
 無謀運転してまで回復しなければならなかった1分30秒。その価値は?
犠牲者の方々のご冥福をお祈りいたします。