夏の名残

 金木犀の香りがそこここに漂い、季節の移り変わりを感じる今日この頃である。
だんだんと肌寒くなってきた。そろそろ暖房器具をチェックしないといけないな、と思うのである。

ところが、昨晩、と言うより今日の未明、思わぬ出来事、夏の名残に遭遇したのである。

ブーン、という羽音。
蚊である。

 もう寒いので、顔だけ出して寝ていたのであるが、その顔にちくりときたのであった。耳の周りを飛んでいる。
初めは夢かと、うとうとしながら思っていたのであるが、どうも現実のようだ。
認識するのにしばし時間がかかった。
 顔にとまったところで、ぱちんとやったのであるが、残念ながら逃げられた。
眼が覚めてしまった。
絶対に退治してやろうともくろみ、今度は、左手を布団から出したのである。
右手でぱちんしようと思って。
 敵もさるもの。なかなか出した左手にはとまらない。耳の周りをぶんぶん飛ぶのである。うるさく。
 いつまで経っても手に止まらない。作戦を読まれたようだ。
またほっぺに止まった。ぱちんしてみたが、外れた。
 ますます眠気が覚めた。 
 夜中にこんなことをしている場合ではないのである。
明日に備えて、充分睡眠をとり、休養しなければならない。はやく退治しなければならない。そう考えると益々焦って、たかが蚊ごときに、ムキになってしまうのであった。
 ムキになればなるほど、ますます眠気が覚める。悪循環。
気分転換にトイレに行った。
再び布団に入って、耳を澄ます。
敵に備えて。でも、それっきり、羽音はしなかった。
良かった。
いつの間にか、眠りについたのであった。

 翌日、つまり今日。
やっぱり眠気があるのである。
コーヒーで誤魔化そう。