起きてみたら

 我が家には 猫が一匹いる。

 こいつが なかなか 生意気なんである。
どういう風に生意気かというと、私の言うことを全く聞かない。基本的に猫は、人の言うことを聞かないと聞き及んでいるのであるが、我が家の猫は、さらに聞き分けが無い。平然と私に反抗するのである。家内や息子の言うことは多少は聞いているのに。

 さらに、私は以前、引っかかれたり、咬みつかれたりしたことがあるので、怖くて、なかなか触れないのである。飼い犬に咬まれたことは無いが、飼い猫に咬まれたことがあるのである。お恥ずかしいことに。
家内や息子は平気で抱き上げたり、膝の上にのせたりしているのであるが、私は怖くてできない。こいつが近寄ってくると、いつ引っかかれるのではないかと、ひやひやし、緊張してしまうのである。

 そもそも、こいつが我が家にやってきたときは、ポケットに入るくらいの大きさで、ほっておくと今にも死んでしまうのではないかと思うような弱々しさで、どうにかしてやらなければ、と憐憫の情を もよおさせるような生き物であった。いわゆる、捨てられた赤ちゃん猫だったのである。ところが、いまや彼はふくよかになり、極度に ずうずうしくなっている。かつての面影は無い。

 こいつが 私に寄ってくる場合が二つある。
そのうちの一つは、するめが欲しい時である。
私は晩ご飯の前にビールを飲みながら するめを食すのを好む。
この時である。彼がしっぽを振って寄ってくるのは。この時だけである。私に対し しっぽを振りながら すり寄ってくるのは。でも、目は私を見ていない。するめを見ている。
 なんと、こやつは、するめが大好物なのである。

 さて、もう一つの、すり寄ってくる理由。
寒いとき。そう、私の寝ている布団に、いつのまにか入り込んでいるのである。いつのまにか私に寄り添うように寝ているのである。
おそらく、私を慕って添い寝しているのではなく、暖を求めているだけであろうと思う。

 というわけで、今朝、起きたら、すぐそばに 猫が寝ていた。雄猫であるのが残念であった。
片腕を思いっきり伸ばし、ぐっすりと寝ていた。
こういう時は、不覚にも、こいつを かわいいと思ってしまうのである。