257と55

 イチローが、新記録を樹立しました。年間最多安打記録257本を抜きました。おめでとうございます。

 昨日の新聞の一面、トップニュースでした。
中国新聞*1の一面に、大きな写真が載っていました。グラウンドを走っているイチローの写真。そのバックには、総立ちで、両手をあげて歓声をあげている観衆が写しだされています。

 シーズン最多安打を、本場の大リーグで達成することは、非常に困難なことでしょう。そして大勢の観衆を熱狂させ、喜ばせる実力があるとは、すばらしいことです。成績の振るわないチームにあって、球場を満員にし、観衆を喜ばせるとは、いったいどのような偉業なのでしょうか。

 ところで、東洋に、野球が盛んな、ある国があったとします。その国には、ホームラン55本という、神聖な記録がありました。他国からやってきた選手が、その記録に挑戦したとします。ホームランを打つこと自体よりも、相手投手にまともな勝負球を投げさせることの方が、はるかに困難なことだとしたら、その野球は、おもしろいものでしょうか。
 ある年、首位打者争いが熾烈を極めたとします。最後の試合まで、どちらがタイトルを獲得するかわからない、こんな状況は、滅多になく、とてもスリリングで、わくわくします。ところが、当事者たちがヒットを打つかどうか、ということよりも、相手投手が、まともに勝負してくるかどうか、がタイトルを左右するとすれば、観衆は熱狂するでしょうか?

 たとえ実力があっても、周りがそれを素直に評価し、その能力を発揮できる環境を創ってあげなければ、その才能は埋もれてしまいます。記録はいずれ更新されるもの。記録に挑戦する者に、その機会を充分与えること。他人の実力を素直に評価し、ともに喜ぶこと。それができれば、すばらしいと思います。出る杭は打たれる。ある国には、そんな言葉があります。
 
 イチローが偉業を達成したことは、とてもうれしいこと。その才能を発揮でき、評価できる環境があったこともうれしいこと。できうればそれが日本であったなら。
 
 チームの勝敗に関係なく、球場全体が、観衆が総立ちで、両手をあげて歓声をあげている、そんなプロ野球が日本に欲しい。

*1:広島県の地場の新聞です。