子供は、なぜ頻繁に転ぶのか?

 あるスーパーでの出来事。私の前を歩いていた小さな女の子が、コテッとこけました。三歳か四歳ぐらいでしょうか。何のでこぼこもない奇麗な床です。滑った訳でもなさそうです。数分後。向こうから小走りに走ってきた小さな男の子が、これまたコテッとこけました。なんの予告もなしに。なにかに躓いたわけでも、滑った訳でもないようです。突然、コロン、と転ぶのです。
 よく考えてみると、我が家の子供達も、小さい頃は、よく転んでいたと記憶しています。なにかに蹴躓(けつまづ)くわけではなく、なんの変哲も無いところで、コロン、となるのです。
 これはどうも、小さな子供特有の病気ではないでしょうか?
仮に、幼児蹴躓病と名付けましょう。あくまでも仮の名前ですので、まだ学会などで使わないように。
 まず、症状としては、突然コロン、と転ぶこと。これが最大の、そして特徴的で唯一の症状です。その後、ギャー、もしくは、ビーと泣き出すことがよくありますが、これには個人差があります。泣き出したからといって、すぐさま大人が駆けつけ、手助けするのは、必ずしも良いことではありません。また、なにごとも無かったかのように、すっくと立ち上がり、また駆け出す子供もいます。あっぱれな子供です。
 次に病因ですが、これはまだ推測の域を出ませんが、いくつかの仮説が考えられます。大きく分けて、三つの可能性があります。
  a 形態的な問題によるもの
 b 機能的な問題によるもの
 c 未知の病原体によるもの
まず、仮説aです。成長期の子供さんですから、右足と左足の大きさがビミョーに違うから、という原因が考えられます。左右の足の長さが違うと、それを考慮にいれて身体のバランスをとらないと、転びやすいです。また、大人に比べると小さい子供さんは頭でっかちで、相対的に重心が上にきますので、一旦足がもつれると、転びやすい、と考えられます。
 次に仮説bです。運動能力がまだ十分に発達していないと考えられ、自分ではきちんと足を動かしているつもりでも、じつは思ったように動いていない、のかもしれません。気持ちは前に行っているが、身体がついてきていない、そのような状態が考えられます。病因がaかbならば、成長につれて、自然に治癒してきます。治療の為に投薬や手術をする必要は無いと考えられます。
 次に仮説cです。もしこれであったら、もっとも恐ろしいものです。おそらく現時点では、その病原体は子供にしか感染しないようですが(その理由はいまだ謎です。)、万が一これが成人に感染する力を持ち出すと、その恐ろしさは、比類無きものかもしれません。考えても見て下さい。いままで颯爽と歩いていたビジネスマンが、突然コテッと転ぶ。ハイヒールを履きこなした見目麗しい妙齢の女性が突然コテッと転ぶ。通勤ラッシュの駅や街角で、その辺を歩いている大勢の大人が、突然なんにもないところで、コテッと転ぶ。しかも頻繁に。社会的な損失があまりにも大きすぎます。