つかの間の水琴窟

 冬のお風呂は心地よい。
 まず、さっとお湯を浴び、おもむろに湯船へ。冷えた身体にお湯が熱い。少しずつ、ゆっくりと身体を沈める。冷えた身体が、次第に暖かくなってゆく。
 ほっとするひと時。
 子供と入るのが楽しみだ。子供と一緒だと、お風呂のひと時も、いろいろと気ぜわしく感じるが、それはそれで楽しい。でも、今日は、一人でゆっくり入った。
 ほっと一息つく。
 静かにしていると、軽快なリズムが聞こえてきた。
ピチョン、ポトン。ピチョン、ポトン。一定の間隔で、水滴の音が美しく聞こえる。暖かで静かな浴室に、涼しげなリズムが反響する。あれ、どこから聞こえるのだろう?不思議に思い、耳を澄ませる。しばらく音色を楽しんだ後、その発生源を探索した。それは排水口から聞こえている。今までこんなことは無かったが、どうしたんだろう?
 しばらくリズムを楽しんだあと、身体を洗う。もちろん、お湯が排水口へ流れて行く。これで、あの音色ともお別れか。再び湯船につかって、ゆっくりする。やはり、音楽は聞こえてこない。
 じっと静かにする。心待ちにしながら。
 アンコールに応えるかのように、再び音楽が始まった。ポトン、ピチョリン。ポトン、ピチョリン。さっきとリズムが変わったぞ。演奏家が替わったのか?
 しばし身体と心を暖めて、湯船からあがった。
 明日の再演を楽しみにして。