ヨーグルトの想い出

 私が子供の頃。各家庭の玄関先に、小さな木の小箱がおいてあった。そこに早朝、牛乳が配達される仕組みになっていた。
 牛乳は瓶に入っている。蓋は、丸い紙栓である。蓋を外しやすいように小さなつまみがつけてある種類もあるが、たいていはつまみもなく、爪でうまい具合にはがさないといけない。これがコツのいる操作で、失敗すると紙の表層がぺろりとはがれるだけで、蓋がなかなかとれなくなってしまうのだ。
 近所の駄菓子屋に行くと、牛乳と同じような瓶に、コーヒー牛乳やら、ヨーグルトやら、いろんな飲み物がおいてあったが、わたしはヨーグルトが好きだった。ゲル状のやつではなく、黄色い瓶に入っていて、ごくごくと飲むやつである。お店には、ふたを簡単に開けるための、針状のふた開け器(正式名称はなんでしょうか?)がある。紙栓に針をぐさっと刺し、ピンと跳ね上げるのである。爪で引っ掛けてとる必要はないのだ。そうそう、紙栓の上には、ビニールで覆いがしてあったのを思い出した。まずそのビニールをはずし、そしておもむろに紙栓に針を刺すのが、丁寧な作法。ビニールをかけたまま、ぐさっと刺し、ビニールと紙栓を一気にとるのは、せっかちな作法。
 それら、牛乳や、ヨーグルトの瓶より背が低く、ずんぐりとした瓶が、奥の方に鎮座していた。それは、ゲル状のヨーグルトである。私が幼い頃、このヨーグルトは高級品だった。少なくとも子供心にそう思っていた。
 まずその瓶が特殊なのだ。いつも見慣れている、あの玄関先の木箱に入っている瓶とは明らかに違う。もうこれだけで畏敬の念が湧き起こる。
なおかつ丸い紙栓が大きいのだ。これを剥がしにかかるのは、多少勇気がいる。子供にとって、これが大きな関門である。
 でも、これらの障害を乗り越えたあかつきには、甘美な、とろけるような、芳醇な世界が待っていた。でも、滅多に食べることはなかった。たぶん、高かったのだろう。
 実は今日、コンビニで、なつかしの瓶にはいったヨーグルトに出会いました。
復刻版、となうってあります。かつて子供の時分、ごくまれに味わったあの世界を期待して、購入しました。すこしワクワクしました。コンビニでワクワクしたのって初めての経験です。