無医村

 鳥取県が無医村、無医地区(お医者さんのいない地域)の解消のために面白い方法を考えました。
鳥取大学医学部に5人ほど枠を設け、県内出身者に月々奨学金を支給します。卒業後は、ある年数、県知事の指定する場所で仕事をする、という条件がつくようです。その条件をクリアすれば、奨学金は返済しなくてよいようです。経済的な理由で医学部に進学できない方達には朗報でしょう。一県に一つは医学部がありますので、このような枠を造って地域の医療をよりよい方向へ持っていくのも名案と思われます。
 このようなシステムを創るのは一つのアイデアですが、ところで、なぜ、無医地区があるのか、という考察が必要です。そもそも無医地区は、過疎地であり、若いお医者さんにとって魅力的かどうか、疑問があります。自分自身の研修ができるかどうか、いざというとき意見を聞ける信頼できる先輩医者が身近にいるかどうか、子供の教育に問題ないかどうか、無医地区にぽつんと放り込まれて、はたしてできるのかどうか、仕事は過酷ではないかどうか、はたしてやりがいがあるかどうか、いろいろと難問が横たわっているようです。お医者さんが過疎地を敬遠するのはそれなりの理由がある訳で、それらをクリアしないと、奨学金で釣っても、いずれ破綻するかもしれません。
 私の記憶に間違いがなければ、かつて20年以上前のこと、長崎県で、同じような試みがあったと思います。長崎は離島が多く、無医村が多かったこともあり、今回の鳥取県のような取り組みを一昔前に行っております。ところが、その先進システムはほどなく破綻したようです。理由は簡単。奨学金を支給された方々が、返せばいいんでしょ、ということで、もらったお金は返し、義務は放棄したからです。奨学金はしっかりいただき、いざ義務が生じたときに、約束の義務は果たさず、お金だけ返してそれで終わり、とした方々が少なからずいらっしゃったそうです。約束を守らないのはけしからん、といってしまえばそうですし、私も当時はそう思いました。
 
高校生時代に高尚な医療理念に燃え、将来は地域医療に尽くそう、と考えていた純朴な少年たちが、結局、後ろ指をさされるのを覚悟で約束を破った。数年の間にどういう心境の変遷があったのでしょうか。鳥取のシステムも、そこのところをしっかりと踏まえないと、あらたな約束破りの純朴な青年たちを創ってしまうシステムになりはしないか、と心配しております。