足に脳があったなら

 ねえ、お父さん、足まで脳味噌が降りてきたら、どうなるん?
お風呂のひととき。例によって、息子の難しい質問が。
これは難問だ。
 たぶん、足まで脳味噌が降りてくることはないと思うよ。
とありきたりの回答。
 食い下がる息子。
でも、重力があるから、モノは下に落ちるんじゃろ?
 うーん。それはそうだが。たぶん、その前にひっかかると思うよ。
まず第一に、脳味噌が足まで降りてくることはないだろう。
その前に、心臓や肺や胃袋に引っかかってしまうに違いない。首の細いところを通れるかどうかも問題だ。おつむの小さい人は可能かもしれないが。
 首に引っかかって、それより下には落ちないと思うよ。
じゃあ、キリンだったら、どう?頭小さそうだし、首は太そうだし、長いから、勢い良く落ちるかもしれないよね?
 うーん。落ちるかもね。
じゃあ、足まで落ちたら、どうなるん?
 多分、足がモノを考えるようになるんじゃないかな?
そうなったら、どうなるん?
 足が勝手に動くようになるかもね。例えば、右足に脳があったとしたら、右足が勝手に動いてしまうんじゃないかな?
じゃあ、両足に半分ずつ脳味噌が落ちたらどうなるん?
 右と左がそれぞれ勝手に動いて、結局バランスが崩れて、すぐこけてしまうんじゃないかな。
なるほど、賢くなったばっかりに、動けなくなるってことか。
 多分ね。
 面白い結論に達した。賢くなったばっかりに、かえって動けなくなる。これは示唆に富む結論だ。
 ところで、なんでこんな疑問が出てきたの?
人間は、考える足だって。
 ちょっと知恵がついてきたばっかりに、かえって、訳の分からないことを言い出した。
 人間は考える葦である。パスカル