ソフトクリーム二つ食べた

 小さい頃から、ソフトクリームは好物だ。
今でこそ、手軽に食べれるが、私の小さい頃は、ソフトクリームは子供の憧れで、ほいほい食べれるような物ではなかった。
家族で隣町の大きなデパート(今から考えると、とても小さなデパートだ。)に行ったとき、屋上でほおばるそれは、この世の物とは思えないほどおいしかった。もったいないから、ほんの少しずつ、ゆっくりと、ゆっくりと、ベロで舐めた。本当に、ゆっくりと味わって食べたものだ。この甘美なひと時が永久に続いて欲しいと思ったものだ。最後の一口に至った時など、ほんとうに物悲しく、日曜のメインイベントの終了を感じたものだ。もっと食べたいと思ったが、口に出せなかった。だって、それは高価なものだったから。いつか大人になって、自分で稼げるようになったら、3っつも4っつも思いっきり食べてやろう、と密かに思っていた。
 大人になった時、その思いはいつの間にか消え失せていた。
チョコレートを死ぬほど食べてやろう、ヨーグルトを少しずつではなく、がばっと一口でたべてやろう、ガムを千円分買ってやろう、などといった、かつての子供の頃の願望も、いつの間にか消えていた。
 さて、先日、ソフトクリームを二つ食べた。
うまれて初めての経験である。今となっては、ソフトクリームを二つも食べようとは思わない。運動不足でもあるし、できれば、おなかを引っ込めたいので、この手の食物は、可能な限り避けたいのである。身体に悪いんじゃないかと思ってしまうのである。ああ、あの子供の頃の思いは、どこに行ってしまったのか?
それでは、どうして二つも食べるはめになったかと言うと、こうである。
家族で、とある高原に遊びにいった。この暑さである。一汗かいて、レストハウスにいくと、おいしそうなソフトクリームが。おもわず、ちょうだい、と店の人に言ってしまった。まあ、少し運動したから、いいか、と思って。
家族の人数分注文した。もちろん、私は自分の分として一つしか注文しなかった。ところがである。ソフトクリームを手にした息子が、突然、おなか痛くなった、と言い出した。まだ一口も食べていないのに、である。なぜ?理由はともかく、すぐトイレに走っていった。私の左手には息子のソフトクリーム。右手には、私の分。とりあえず、自分のを食べだした。息子はなかなか帰ってこない。よく見ると、息子のソフトクリームが、溶け出してきているではないか。まずい。ええい、しかたない、食べちゃおう。というわけで、二つも食べてしまったのだ。
子供の時のように、ほんの少しずつ、ゆっくりと、ゆっくりと、ベロで舐めるような、そんなゆとりはなかった。はやく食べないと、溶けてしまうのだ。急いで食べた。味も糞もない。
なんか、身体に悪いことしたような気がしたが、まあ、しかたない。だめにするよりは、食べちゃおう。
 それにしても、子供の頃の、あのおいしいソフトクリームを、もう一度食べたい。